今回はバックオフィス業務である給料計算の基本のベースアップ等で給料の金額が変わったらどうするか及び万が一給料計算を間違えたらどうするかについてご紹介致します。昇給があった場合には、社会保険料の変更に気をつける必要があります。社会保険料が変更されるのは、昇給後3ヶ月分の給与を平均して、従来の標準報酬月額に対して一定の変動があったときとなりますから、すぐに変更しないので注意が必要です。また、単に給与から控除する金額を変えるだけではなく、その前に年金事務所(健康保険組合に加入している場合には健康保険組合にも)に、「報酬月額変更届」を提出する必要があります。今回はこういった給料計算の基本についてご紹介致します。
ベースアップ等で給料の金額が変わった場合
社会保険料は残業などで毎月の給料の増減があっても変わりませんが、年の途中で固定給が大きく変わった場合は、社会保険料も変更されます。
- 提出書類
・健康保険、厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届
- 添付書類
・特に無し
被保険者が役員の場合は次のいずれかのコピーを提出します。
・株主総会、取締役会等の議事録
・報酬決定通知書
・役員間の報酬協議書
・債権放棄を証明する書類 - 提出先
・年金事務所(事務センター) - 提出時期
速やかに
- 検索場所
・月額変更届
日本年金機構/月額変更届の提出
社会保険料の月額変更の基礎を知る
- 固定的賃金が変わった場合
「固定賃金」とは、基本給や手当だけでなく、引っ越しをしたことによって毎月の定期代が大きく増えたというような場合も該当する場合があります。逆に残業代の変動は対象外です。
固定的賃金の変動 ①昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン) ②給料体系の変更(日給から月給への変更等) ③日給や時間給の基礎単価(日当、単価)の変更 ④請負給、歩合給などの単価、歩合率の変更 ⑤住宅手当、役付手当など、固定的な手当の追加、支給額の変更 - 標準報酬が2等級以上差が生じた場合
固定的賃金の変更があった月から3か月の報酬の平均額が、現在の保険料のベースとなる標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合を言います。ただし、次のような場合は対象外です。
①固定的賃金は下がったが3か月間の残業が少なく、平均2等級以上の差がつかない
②固定的賃金は下がったが3か月間の残業が多く、平均2等級以上の差がつかない
給料計算と月額変更の処理のポイント
例
12月に辞令が出て係長に昇進。役職手当2万円が支給され、報酬月額が23万円から26万円にアップした(月末締め翌月15日払い)
固定的賃金 | 残業代 | 合計 | |
12月15日払(①) | 210,000円 | 15,000円 | 225,600円 |
1月15日払 | 225,000円 | 35,500円 | 260,500円(②) |
2月15日払 | 225,000円 | 31,900円 | 256,900円(②) |
3月15日払 | 225,000円 | 38,200円 | 263,200円(②) |
4月15日払(③) | |||
5月15日払(③) | 改定された保険料を控除 |
- 上記①
辞令が降りる:固定的賃金は上がったが、2等級以上の昇給ではない - 上記②
残業代と合計すると3か月の標準報酬の平均が2等級以上の差が生じているので、随時改定(月額変更)の対象となる - 上記③
改定年月:4月に保険料が改定となるが、実際の給与計算では前月の社会保険料を控除していることから、5月15日払いの給料から改定された保険料を控除する
もし給料計算を間違えたら
給料計算の間違いを発見したら、なるべく早めに対処することが重要です。
給料計算ミスの具体例と対応
- 毎月の給料
次のようなミスが多くみられるので注意します。ミスの内容 修正方法 対応策 防止策 - 給料の変更
基本給・諸手当の変更によって残業単価や有給単価が変わる場合は、再計算をして翌月に差額を調整する 社会保険料は月額変更の対象になるのか確認し、申し送りシートにメモしておく 変更の手続きをするたびに給与計算の申し送りシートにメモをして抜け漏れを防ぐ - 住所変更による交通費の変更
(日割りが発生する場合も)
交通費や社会保険料、残業代に影響しない手当は、そのまま翌月分で調整する 住所変更は、日割り計算して対応し、定期代をマスタ登録する - 扶養家族の変更による所得税額の増減
- 社会保険や雇用保家の資格得喪による保険料の変更
雇用保険や所得税は支給額を修正すると金額が変わるが、月ごとに調整する必要はないので、翌月に調整した給与をもとに金額を算出する 一旦納付した所得税を修正する必要はない - その他の想定されるミス
次のようなミスが多いので注意します。ミスの内容 修正方法 注意点と防止策 - 月額変更を忘れていて保険料が改定されていなかった
月変、課税の両方とも気づいた段階で遡り、差額は調整金で処理する 固定的賃金の増減があった時に保険料が変更になる月(5か月後)に定め、予定を記入しておくようにする - 課税・非課税のマスタ設定を間違えていた
新しく設定した項目、新たに入社した従業員については念のため手計算で確認することも必要 - 産休に入った従業員の社会保険免除の処理を忘れてしまった
翌月に振込む
(控除項目の社会保険の部分に同額をマイナスで計上する)月の途中で産休に入った場合でも、月末に休業していたら社会保険料が免除になる総支給額がマイナスにならないため気づかないことが多い。いつから免除んあるのか、あらかじめ確認しておく。
まとめ
今回は給与計算の中でもベースアップ等で給料の金額が変わった場合および給料計算を間違えた場合についての基本的なを説明をしましたがいかがでしたか。今回解説したように、従業員の固定的賃金が数万円単位で変動した場合には、随時改定が必要になる可能性が高いです。そのため、特に給与体系を大きく変更するようなケースでは、随時改定の条件に該当していないかを確認することが必要になります。また、要件を満たしている場合には、「年間平均の保険者算定」をきちんと活用する必要があります。社会保険についてはやや複雑な内容もあるが、労務担当者・給与計算担当者が正しい知識を身につけておくと従業員の安心にもつながるため、理解をしっかりと深めてほしいと思います。そういった給与計算の仕事を円滑に行うには、社会保険労務士の資格取得がおすすめです。働きながら勉強できる資格なので、給与計算の担当としての成長を願うなら資格取得や複業で他社の業務に携わってみてはいかがでしょうか。