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テレワーク(リモートワーク)の導入手順について~労務時間管理の方法~

 新たにテレワーク(リモートワーク)を導入しようとする事業者や、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて急いでテレワークを導入したものの、導入について十分な検討をする時間がなかった事業者向けに、テレワークに伴って生じうる労務・法務・情報セキュリティに関する問題点を簡単に記載致します。今回は、テレワーク(リモートワーク)の導入手順時の労務時間管理の方法についてをご紹介致します。

 

テレワーク勤務時の労働時間制度

 テレワークにあたっては、従業員が通常のオフィス勤務と異なる環境で就業することになります。そのため、これまでの労務管理とは別の労務管理が必要なのではないか、と懸念する企業も多いようです。しかし、テレワークを導入するからと言って既存の労務管理方法を大きく変更する必要はないと考えられます。

 基本的なところですが、テレワークで働く従業員についても労働基準法をはじめとして、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法といった各種労働法は適用されます。そのため、各種労働時間規制も引き続き適用されます。

 そして、労働時間制度ですが、これについても、これまで自社が使っていた労働時間制度を継続して使用するということで問題ありません。もし、これまで1日8時間、週40時間制のスタンダードな固定的な労働時間制度を使用していたのであれば、引き続き固定的な労働時間制度でテレワークを運用していくことが出来ます。

 

 また、これまでフレックスタイム制度や裁量労働制を適用している場合には、テレワークになった後も引き続きフレックスタイム制度や裁量労働制を適用し続けることで問題ありません。
 テレワークを導入したからといって、使い慣れない制度を導入するよりは、使い慣れた労働時間制度を利用した方がスムーズに運用を行えます。

◎裁量労働時間制とは?

 「みなし労働制のひとつ」で、労働時間が労働者の裁量にゆだねられている労働契約のことを指します。簡単にお伝えすると「労働時間が長くても短くても、実際に働いた時間に関係なく『契約した労働時間分を働いた』ことにする」制度です。

 大きな特徴としては、出退勤時間の制限が無くなり、実労働時間に応じた残業代は発生しません。また、同制度は全ての業種に適用できるものでもなく、適用対象は設計者や技術者など法律が認めた業種に限ります。

なお、導入には、就業規則の規定のほか労使協定の策定と労働基準監督署への届出が必要です。

◎フレックスタイム制度とは?

  フレックスタイム制度とは、「一日の労働時間の長さを固定的に定めず、1カ月以内の一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者がその総労働時間の範囲で各労働日の労働時間を自分で決めることが出来る労働時間制度」のことです。

 そのため、柔軟に日々労働時間を決定して働いた結果1か月の労働時間を集計して、あらかじめ定まっていた1か月での総労働時間(例えば、160時間)を上回っていればその分割増賃金が発生し、下回っていればその分割増賃金が発生し、下回っていれば賃金がその分控除されるといったような運用になるのがフレックス制度です。

この制度は、自由な時間に働けるというメリットがあります。しかし、この制度を悪用し、残業代を払わなくてもよい制度であると社員に思い込ませ、残業代を違法に支払わないようなブラック企業も存在します。

 

なお、導入には、就業基礎の規定のほか労使協定の策定が必要です(労働基準監督署への提出は不要です)。

 

テレワーク勤務と事業場外みなし労働時間制の適用

 また、労働制とフレックスタイム制度に加え、テレワークとせで語られることの多いものとして、「事業場外みなし時間制」というものがあります。

 労働者が業務を事業場外で従事し、会社の指揮監督が及ばないために労働時間の算定が困難な場合には、事業場外労働については「あらかじめ決めた労働時間(津城所定労働時間)」を労働したとみなすことのできる制度です。テレワークはこの「労働者が業務を事業場外で従事し」というところにあてはまるため、テレワークの導入の際に、この事業場外みなし労働時間制を活用すれば、従業員の労働時間は特に管理せず、必ず所定労働時間の8時間労働したとみなせばいいということになるのでは、と考える企業も多いようです。

ただ、テレワーク時にこの事業場外みなし労働時間制を適用するには一定の要件があります。具体的には次の3点を満たす必要があります。
※厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」。

  1. テレワークが、日々私生活を営む自宅で行われること
  2. 使用するパソコン等の通信機器が自分の意思で、通信可能な状態(会社・上長から随時具体的な指示を行うことが出来る状態かつ、それに従業員が即応しなければならない状態)を切断することが会社から認められていること
  3. テレワークが、随時会社・上長の具体的な指示に基づいて行われていないこと

それぞれの要件を見ていくと、
 上記1については、テレワークのうち、在宅勤務であれば、当てはまります。

 上記2については、なかなか確実に満たせるという企業はないように考えています。つまり、通常テレワークを行う従業員に対し、「勝手にパソコンをオフラインにしてメールやチャットツールに応答しないこともOK.電話にも出なくてよい」といったことまで許容する企業はなかなかないかと思います。

 上記3については、テレワーク時にも急遽お願いしたい業務などを依頼することもあるかと思います。通常のオフィス勤務と同様、会社・上長の指揮命令に基づき業務を遂行する場合が多いと考えられます。いつでもオフラインに出来、具体的な指揮命令を受けず自分の裁量で業務を進めるという条件が確保できているのであれば事業場外みなし労働時間制を適用することもできるかもしれません。ただ、テレワークをめぐる各種オンラインミーティングツールやコミュニケーションツールが発展している現在、事業場外みなし労働時間制を適用できる場面というのはなかなか限られてきているものと考えられます。少なくとも、「テレワークであれば、事業場外みなし労働時間制が自動的に使える」というのは大きな誤解です。

 

 もし、事業場外みなし労働時間制の適用が否定された場合、追加の未払い賃金を支払う必要が出てしまう等、企業にとって少なくないダメージを与えることになります。テレワーク導入に合わせて、新しい労働時間制度を導入するということよりは、まずは今まで通りの労働時間制度を活用し、時間管理を行っていくということが、現場の混乱も招かずスムーズなテレワーク導入に繋がります。

 

テレワーク勤務の勤怠ルール

 労働時間管理で、「テレワークだといつから業務を開始して、いつ業務を終了するのかがわからない。休憩時間の取扱いをどうしたらいいのか」という懸念している企業もあるかもしれません。これは下記のようなルールを徹底してもらうことで、従業員が業務をしているのか、もしくは離籍しているのかを明確にすることが出来ます。

  1. 始業時
    業務開始時に、「業務を始めます」という開始報告をメール、チャットツール、電話等会社所定の任意の方法で行ってもらう。
  2. 休憩
    休憩開始時に、「休憩入ります」という報告をメール、チャットツール、電話等会社所定の任意の方法で行ってもらう。
  3. 休憩終了時
    休憩終了時に、「休憩終了します。業務に戻ります。」という報告をメール、チャットツール、電話等会社所定の任意の方法で行ってもらう。
  4. 終業時
    業務終了時に、「業務を終了します」という終了報告をメール、チャットツール、電話等会社所定の任意の方法で行ってもらう

 

 勤怠の打刻もこの通り行ってもらえれば、きちんとオフィス勤務時と同様に労働時間の管理が出来ますので、離れたところで働くテレワークだからといって、特別に案ずることはありません。

 

 なお、勤怠管理については、2019年4月より、働き方改革に関連し労働安全衛生法が改正され、管理監督者や裁量労働制従事者を含む、全ての労働者の労働時間を客観的な方法(タイムカード、ICカード、PC打刻)で把握することが法律で義務化されました。テレワーク導入時には、クラウド勤怠管理ソフトの導入など客観的に労働時間を把握できる方法導入することが望ましいです。

最近では、従業員が勤怠打刻をスムーズに行えるような仕組みを搭載しているサービスも多く出てきています。テレワーク導入は、これまでの自社の勤怠管理の方法を見直すいい機会と捉えると思います。

 

まとめ

 上記までにご紹介致しました通り、テレワークを実施については労務時間管理を変更する場合はそれに伴った対応が必要となります。テレワークの推進には、就業規則等の制度面だけでなく、従業員のITリテラシー向上も必要です。この機会にITスキルの可視化を行ってみてはいかがでしょうか?

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