新たにテレワーク(リモートワーク)を導入しようとする事業者や、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて急いでテレワークを導入したものの、導入について十分な検討をする時間がなかった事業者向けに、テレワークに伴って生じうる人事評価・労務・法務・情報セキュリティに関する問題点を簡単に記載致します。今回は、テレワーク導入にあたって、知的財産について疑問を感じている会社向けに、会社で購入した商用ソフトウェアを私物の端末上でインストールしても良いのかについてご紹介致します。
商用ソフトウェアの著作権
コンピュータで動作するソフトウェアは、プログラムの著作物として著作権法による保護を受けますが、ソフトウェアを「利用」するだけであれば、著作権法上は著作権者の許諾は不要です。また、プログラムの著作物の複製物(ソフトウェアのインストーラ・ディスク等)の所有権は、自ら当該著作物をコンピュータにおいて利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製等(インストール)をすることができるとされており(著作権法第47条の3第1項)、インストールのための複製等も制限はされません。
しかし、これはあくまで適法に利用許諾(ライセンス)を受けた利用権者が行う複製等を想定しており、異なるユーザ間での頒布のための複製等を認めたものではありません。商用ソフトウェアの場合は、利用に当たって、著作権者側が定めたライセンス条件に従って利用することが必要です。
ライセンス数の管理
法人等の組織で商用ソフトウェアを導入する場合は、ボリューム・ライセンスと呼ばれる利用するアカウント数に応じて利用料(ライセンス料)が決まることが一般的です。そのため、あらかじめ契約で設定されたアカウント数を超えて商用ソフトウェアを利用することは、追加的な利用料の支払いが必要になるケースがあります。近年は、インターネット経由で商用ソフトウェアの利用権を管理する著作権者も増えてきたため、物理メディア(パッケージ)の形で頒布されているソフトウェアであっても、利用可能数を超えたことは容易に著作権者が知りうる状況になっています。
テレワークの導入に当たって業務における私物端末の利用を認める場合には、このアカウント数に注意する必要があります。多くのインターネット経由でソフトウェアの利用権管理は端末の固有識別子を利用するため、アカウント数といいながらも、実際に商用ソフトウェアを利用する人数ではなく、利用する端末数で計算するのが、一般的です。そのため、同じ従業員が利用する場合でも、端末が異なれば、端末の数だけライセンスが必要となることがあります。この場合は、管理者側で、ライセンス認証を解除して、テレワークで利用する端末で空いたライセンス枠を使ってインストールする等の対応が考えられます。
消費者向けライセンスの流用
多くの商用ソフトウェアでは、個人ユーザ(消費者)向けのライセンスと法人ユーザ向けのライセンスが区別されており、ライセンス管理だけでなく、ソフトウェア自体門愛用が異なるケースがあります。このような場合、自宅の私物端末にインストールされている個人ユーザ向けのライセンスを利用して勤務先の業務を行うことは、その従業員にとっては個人ユーザ向けのライセンス条件の違反となり、勤務先の法人にとっては法人向けのライセンス条件の違反となり、勤務先の法人にとっては法人向けのライセンス条件の違反となる恐れがあります。(厳密にはBYODにおいて私物端末を利用する場合には、その私物端末にインストールされているOSや日本語入力ソフトのライセンスにおいても同様の問題があります)。
よって、商用ソフトウェアの利用が必須の場合には、機密情報や個人情報の持ち出しにかかる懸念について適切に対応する限りにおいて、業務上で使用している端末の持ち帰りを認める方が無難です。
まとめ
上記までにご紹介致しました通り、会社で購入した商用ソフトウェアを私物の端末上でインストールして利用することについては、複数端末での無断利用は、商用ソフトウェアのライセンス条件に違反する可能性があります。