新たにテレワーク(リモートワーク)を導入しようとする事業者や、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて急いでテレワークを導入したものの、導入について十分な検討をする時間がなかった事業者向けに、テレワークに伴って生じうる労務・法務・情報セキュリティに関する問題点を簡単に記載致します。今回は、テレワーク(リモートワーク)の導入手順時の時間外労働・休日労働の管理方法についてをご紹介致します。
テレワーク勤務時の時間外労働・休日労働
テレワークで働く従業員について労働基準法をはじめとした各種労働法は当然適用となります。つまり、36協定(時間外労働・休日労働の労使協定)の適用や割増賃金支給義務なども変わりません。勤怠管理の義務も変わらずあるわけですので、時間外労働も当然に管理する必要がありますし、それに応じた割増賃金の支給も必要となります。
仮に事業場外みなし労働時間を適用し、「テレワーク勤務時には8時間とみなす」としている場合や、裁量労働制を適用している場合には、時間外割増賃金の支給が発生しないケースはあります。ただ、それでも進にゃ割増賃金や休日割増賃金の支給義務はありますし、勤怠管理の義務は変わらずありますので、時間外労働・休日労働時間の管理は引き続き行う必要があります。
また、テレワークの場合、とりわけ在宅勤務の導入において気を付けるべき点として、長時間労働・未払い残業代対象が挙げられます。どういうことかというと、自宅で業務を行っている場合、夕飯を食べた後、残っている仕事がきになり業務を再開してみたり、週末にモバイルPCを持ち帰っていることで休日にもPCで業務の続きをしてしまったりと、オフィスで勤務しているときよりも「業務の終わり」の区別が付けにくくなります。また、オフィスから離れたところで業務をしているということから、「目にも見える成果を上げなければ」と普段以上に業務を行ってしまう従業員も多いようです。在宅勤務になれていない従業員の場合、オフィス勤務時との環境さでパフォーマンスが落ちてしまうことを労働時間でどうにか補おうとして長時間労働となってしまうケースがあります。
このようにテレワークはどうしても長時間労働となりがちな要素が重なってしまっています。
テレワーク勤務時の長時間労働の防止策
このような事情を受け、厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」には、テレワーク時には「長時間労働を防止する対策を図ることが使用者には求められる」という旨の記載があります。例えば
- メール送付の抑制(役職者などから時間外、休日深夜におけるメール送付の自粛)
- システムへのアクセス制限
- テレワークを行う際の時間外、休日、深夜労働の原則禁止等
が挙げられています。
①については、メールに限らず、昨今多くの企業で導入されているチャットツールも同様です。こうしたチャットツールはメールに比べて気軽に送付が出来ることもあり、つい時間外や休日に送付してしまうということもあるかと思います。
判例上、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に判断できる時間」とされています(裁判平成12年3月9日・民集54巻3号801頁)。つまり、就業時間後であったとしても、チャットツールの返信を行う時間は労働時間とみなされる可能性があります。
裁量労働制が導入されている企業などだと、それぞれの従業員が稼働する時間に幅があり、ある社員は9時から19時に労働しているが、ある社員は12時から21時に稼働しているといった場合、それぞれがそれぞれの稼働時間に自由にチャットツール等で業務連絡を行っていると、「今も自分宛てに連絡がきているのでは」と気になり終業時間後もPCやスマートフォンで確認してしまうということは少なくないと考えられます。こうした場合の対応ですが、全社的に、就業時間後のチャットツールへのログインや返信は不要と最初からアナウンスしている企業も多くあります。
実際に裁判になった場合には、その業務連絡の内容や頻度などの実態を総合的に判断して労働時間かそうでないかが判断されることになりますが、就業時間後は「返信は休日や労働時間以外には不要」とあらかじめ周知しておけば、業務連絡があったからといってそれが直ちに労働時間とみなされるリスクは少ないといえます。
また、②はそもそも業務関連のシステムには所定の時間以外にはアクセスできないような設定とするという方法です。強制的に業務が出来ないようにし、過重労働を防止するということです。
③のテレワークを行う際の時間外、休日、深夜労働の減sく禁止などについては、週1~2回といった実施であれば、テレワークを行う日は残業しないというルールとすることも可能かもしれません。一方テレワークが週のほとんどを占める社員の場合には難しい可能性もあります。ただ少なくとも、テレワーク勤務時で時間外労働をする際には事前に許可を取ったうえで行うことが必要だと考えています。
会社側の都合としても、テレワークだと仕事をしているのか他のことをしているのかというのが見えにくくなるのは事実です。テレワークで許可なく時間外労働をされた場合に、会社としては割増賃金のコストがかかることもあり、気になるというお話をよく伺います。こうした意味でも、③の時間外労働の許可制というのは、テレワークの場合には導入することをお勧めします。
まとめ
上記までにご紹介致しました通り、テレワークを実施については労務時間管理を変更する場合はそれに伴った対応が必要となります。テレワークの推進には、就業規則等の制度面だけでなく、従業員のITリテラシー向上も必要です。この機会にITスキルの可視化を行ってみてはいかがでしょうか?